地歌箏曲歌詞一覧

〜地歌箏曲の歌詞をテキストデータにしました。歌わない尺八家だからこそ、歌詞を意識したいです。〜

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ま行

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松風(生田) 作曲者不詳、詞:謡曲「松風」より

懐かしや、行平の中納言、三年(みとせ)をここに須磨の浦、都へ登り給ひしに、この程の形見とて、御(おん)立烏帽子、狩衣を、遺し置き給へども、これを見る度にいや増しの思い草、葉末(はずゑ)に結ぶ露の間も、忘られずこそ味気なや、形見こそ今は仇なれこれなくば、忘るる暇もありなんと詠みしも理りや、猶(なほ)思ひこそ深かりし、宵々に脱ぎてわかぬる狩り衣、かけてぞ頼む同じ世に、住むかひ有らばこそ忘れ形見もよしなしと、捨ても置かれず、取れば面影に立ちまさり、起き伏しわかで枕より、あとより恋の責めくれば、詮方涙に伏し沈むこそ悲しけれ、うき瀬川に絶えぬ涙の憂き瀬にも、乱るも恋の淵はありけり、たとへ暫しは別るるとも、松に変らで帰りこば、あら頼もしの御歌や、立ち別れ因幡の山の峰に生ふる松とし聞かば今帰り来む、それは因幡の遠山松、是は懐かし君ここに、須磨の浦曲(うらわ)の松の行平たち帰り来ば、我も木陰にいざ立寄りて、磯馴れ(そなれ)松の懐かしや、松に吹きくる風も狂じて、須磨の高浪烈しき夜すがら、妄執の夢に現はれ見ゆるなり

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松風(山田)  中能島検校・三世山木検校作曲、宇和島藩伊達家某作詞

久方の、月の桂の影高く、風吹き送り真砂路(まさごぢ)を、磨きなしたる光をば、昼かとばかり見渡せば、花も紅葉もなかりけり、浦の苫屋(とまや)に秋ふけて、うちも寝られず海人(あまびと)は、汐馴(しほな)れ衣袖寒み、砧の音も恨みなり
十編(とふ)の菅薦(すがごも)三編(みふ)に寝し、昔偲べば割り爪の、わりなき仲もなかなかに、なに裏摺(うらず)りの恨み言、袖は涙の波返し、返る袂を引き連に、秋の夜長し長かれと、名残は尽きぬ筑紫箏、海と呼ぶ名に由縁(ゆかり)ある、磯辺の松を吹く風も、おのづからなる調べには、雲井の雁も琴柱して、落つるまにまに声添へて、心を澄ます波の音、秋風楽やこれならむ
面白や、松風の調べ添へたる玉琴は、千代の例(ため)しにひく弦(いと)の、永き世かけって尽きせじと、八百万代(やほよろづよ)も三笠山、君が恵みや仰ぐらむ

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ままの川  菊岡検校作曲、宮腰夢蝶作詞

夢が浮世か浮世が夢か、夢てふ廓(さと)に住みながら、人目を恋と思ひ川、嘘も情もただ口先で、一夜流れの妹背の川を、その水くさき心から
よその香りを衿袖口に、つけて通はばなんのまあ、可愛可愛の烏の声に、覚めて悔しき儘(まま)の川

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萬歳  城志賀作曲、詞:大和万歳「柱建」「えびす舞」「京之町」等より

とく若に、御萬歳と御代も栄へまします、愛嬌有りける新玉の、年立ち返る明日より、水も若やぎ木の芽も咲き栄へけるは、誠に芽出たう候ひける
京の司は関白殿の、下り居の帝、日の本内裏、王は十全神は九ぜん、よろづ安々うらやすがこのもとに、正月三日寅の一天に、誕生まします若蛭子(わかえびす)、商ひ神と祝はれ給ふて、商ひ繁盛と守らせ給ふは、誠にめでたう候ひける
やしよめやしよめ、京の町のやしよめ、売ったる物は何なに、大鯛小鯛、鰤(ぶり)の大魚(おほうを)、鮑(あわび)、栄螺(さざえ)、蛤(はまぐり)こ、はまぐりこ、はまぐりはまぐりはまぐりめさいなと、売ったる者はやしよめ、そこをうちすぎ、そばの棚見たれば、金襴箪笥(きんらんだんす)紗綾(さや)や緋縮緬(ひちりめん)、繻子(しゅす)緋繻子(ひじゅす)縞繻子(しまじゅす)繻珍(しゅちん)、いろいろ結構に飾り立てて候ひしが、町々の小娘や、お年の寄ったる乳母たちまで、売り買ふ有様は、実にも治まる御代なり時なり、恵方(ゑはう)の御倉(みくら)にずうしりずうしり、ずしずしずし、宝もおさまる門(かど)には門松、せどにはせど松、そっちもこっちも幾年の、御祝ひと祝ひ納めた

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水の玉  九州・宮原検校作曲、作詞者不詳

夢ならば、さめて逢ふ夜もありなまし、こはあだし野の白露と、きえては名のみ久方の、空に思ひの浮雲や、絶えぬ涙は音なしの、滝と乱れて玉の緒の、永くもがなと皆人の、祈りしかひも夏衣、きつつなれにしつま琴や、また三ツの緒の調べにも
昔恋しやなつかしや、たとへて云はば春の花、秋の紅葉とあふがれし、その面影は有明の、月の光の影清き、たがはぬ水の流れをば、幾千代かけて汲むならん

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三ツの景色  菊塚与市作曲、市田瓢々作詞

朝よさを、たが松島ぞ片心、波のつづみの新しく、年を重ぬる日の始め、輝きうつる磯清水、今も尽きせじ語り草、蕪村おきなの筆ずさみ、その石ぶえも橋立や、松は月日のこぼれ種、恵みも深き笠の松
くぐる鳥居や浮殿の、かげさへ広き千畳敷、ひつじさがりの時さへも、色美しき紅葉谷、山さへ高くいやまして、うらやなな浦なな恵比寿、漕ぎ行く船ぞ面白き

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都の春  初世山勢松韻作曲、鍋島直大作詞

残る隈なく障り無く、光り輝く朝日かげ、加茂の川風のどかなる、都の春になりぬれば、野山の草木おしなべて、花咲きにけり白妙の、富士の高嶺も陸奥(みちのく)も、積りし雪の名残なく、とけて流るる河水の、行く末広き難波潟、波路のどけき四方の海、寄せ来る舟のうち集い
めぐみも深き大君の、豊かなる世に立ち返り、万代歌ふ声ぞ絶えせぬ、 万代うたふ声ぞ絶えせぬ

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御山獅子  菊岡検校作曲、伊勢松坂三井家・竹中墨子(直枝)作詞

神路山、昔に変らぬ杉の枝、茅の御屋根に五色(ごしき)の玉も、光を照らす朝日山、清き流れの五十鈴川、御裳濯川(みもすそがは)の干しの網、宇治の里ぞと見渡せば、頃は弥生の賑はしき、門に笹立て鈴の音も、獅子の舞ぞと唄ひつる、山を越したる小田の橋、岩戸の前に神楽を奏し、二見が浦の朝景色、岩間によどむ藻塩草
関寺の夕景色、野辺の蛍や美女の遊び、浮かれて汲むや盃の、はや鳥羽口にもみぢ葉の、染めて楽しむ老い人の、浅熊山眺めにまさる奥の院、晴れ渡りたる富士の白雪

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虫の音  藤尾勾当作曲、作詞者不詳

思ひにや、憧(こが)れてすだく虫の声々、小夜ふけて、いとど淋しき野菊にひとり、道は白菊たどりて此処に、誰を松虫なき面影を、慕ふ心の穂にあらはれて、荻よすすきよ、寝みだれ髪の、とけてこぼるる涙の露の、かかる思ひを何時かさて忘りやう、兎角輪廻の拙き此身、晴るる間もなき胸の闇、雨の降る夜も降らぬ夜も、通ひ車の夜毎に来れど、逢ふて戻ればひと夜が千夜、逢わで戻ればまた千夜、それそれそれぢゃ、それがまことのさ、ほんに浮世が儘ならば、何を恨みん由なき事を、桔梗(ききやう)刈萱(かるかや)女郎花(をみなへし)、我は恋路に名は立ちながら、ひとり丸寝(まろね)の長き夜に
おもしろや、千草にすだく虫の音の、機(はた)織る音はきりはたりてふ、きりはたりてふ、つづれさせてふひぐらし、きりぎりす、色々の色音のなかに、わきて我が偲ぶ松虫の声、りんりんりんりんとして、夜の声めいめいたり、すはや難波の鐘も明方の、あさまにや成りぬべし、さらばよ友人(ともびと)、名残りの袖を、招く尾花のほのかに見えし、あと絶えて、草ぼうぼうたる阿倍野の原に、虫の音ばかりや残るらん、虫の音ばかりや残るらむ

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六玉川  初世山木千賀移曲、富本節「草枕露の玉歌和」(三世鳥羽屋里長作曲)より

鳥が鳴く、東(あづま)からげの草枕、急がぬ旅も敷島の、急がぬ旅も敷島の、道をたどりて六玉川、筆に綴りて書き残す、景色は歌の徳ならむ
足曳きの、山踏み分けて遥々と、霞たなびく遠近(をちこち)の、眺めは飽かぬ七重八重、花のしがらみ影添へて、色には井手の山吹に、蛙(かはず)も歌の風情あり
かかる名所に紀の国の、高野の奥の流れをば、汲みやしつらん旅人の、忘れても、野路はゆかりの色深く
錦の萩の下葉まで、もれてぞ置ける白露の、月は宿りて夜もすがら、恋しき人は鈴虫の、ふりすてられて機織(はたおり)の、夜寒をわびる閨(ねや)の戸に、つづれさせてふきりぎりす、誰を松虫焦がれてすだく、我も想ひに堪へかねて、いとど心のやるせなや、迫る悋気(りんき)の津の国や、解けてしっぽり合槌(あひづち)の、それさへなくて小夜衣、濡れる袂や袖の露、ひとり焦がれて繰り返す、打つに砧のおとづれも、絶えて梢の松風は、憂きつま琴の音(ね)に立ちて、夜毎(よごと)調べのゆかしさに、徒(あだ)な浮き名も調布(たづくり)の、照る月の波に漂ふ玉川に、干してさらさら晒す白布
立つ波は、立つ波は、瀬々の網代(あじろ)に障(さ)へられて、流るる水をせき止めよ
馴れし手業の賤の女(め)は、馴れし手業の賤の女は、いざや帰らん賤の戸に、げに面白き陸奥(みちのく)の、野田の苫屋の波枕、千鳥は歌の友なれや、筆のすさびを家土産(づと)に、残す言葉は富本の、栄久しき里の長(をさ)、めでたくこそは聞こえけれ

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明治松竹梅  菊塚与市作曲、詞:明治天皇・皇后御歌ほか

風の音は静まりはてて千代呼ばふ、田鶴(たづ)がね高し峰の松原
栄えゆく御園生(みそのふ)の松に雛鶴の、千代の初めの声を聞かばや
このうへに幾重降りそむ雪ならむ、たかむら高くなりまさりつつ
たちかへる年の朝日に梅の花、かをりそめけり雪間ながらに
大君の、千代田の宮の梅の花、ゑみほころびぬ年の始めに
新玉の年の始めの梅の花、みるわれさへにほほゑまれつつ
あたらしき年の祝(ほ)ぎ事いひかはし、袖にもかをる梅の初花

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名所土産  作曲者不詳(伝,讃州某または玉塚検校)

水無月の、初旅衣きてみれば、ここは住吉青丹よし、奈良坂越えて夕暮れの、空も静かに、寂滅為楽と告げ渡る
これぞ名に負ふ大仏の、予言もれて高円の、よそに浮き名や立田山、三輪の山路の裳裾の糸の、いとど古里春日野の、社にしばしこの手をば、合はせ鏡の底清く、あれあれ南に雲の峰、暑さ凌ぎの三笠山、月の七瀬の飛鳥川、変はるや夢の数添へて、名所名所の都の巽、宇治の川面眺むれば
遠に白きは岩越す波か、晒せる布か、雪に晒せる布にてあり候
賤の女が、脛もあわはによそねじま、馴れし手業の玉と散る、波のうねうね白玉ぞ散る
あら面白の景色やな、あら面白の景色やな、われも家路に立ち帰り、土産に語らん、花の家土産に語らん

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