琴古手帳より「當流尺八曲目」
「琴古手帳」とは、大正8年、河本逸童師が尺八展覧会を開催するにあたり、初代琴古7代の孫に当たる黒澤栄太郎氏方の仏壇の中から発見し、同家より乞受け展示したものです。これは、2世琴古の備忘録に3世が追記したもの(故に「父琴古」「祖父琴古」が混在)で、題名なしの縦2寸、横5寸程の横綴じの小手帳であったようです。現在、原本は行方不明となっており、中塚竹禅師の筆写をもとに塚本虚堂師が100部限定で影印出版したものが現存する資料となります(虚無僧研究会にて復刻、発行)。
「當流尺八曲目」は、この資料の中でも特に資料的価値が高く、琴古流本曲の成立過程を知る上での根本資料であるといえます。本曲関連の解説書、専門書にもよく引用される文献ですが、ここに謹んで掲載させて頂きます。なお、漢字の字体は原則として塚本先生の影印出版のものに準じております。
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○當流尺八曲目
一 霧海※
ヂ鈴慕
※「ヂ」は竹冠+まだれ+虎
一 虚空
一 真虚靈 前吹 盤渉
右古傳本手三曲
右者享保十三戊申年肥前國長崎正壽軒ニ而一計子ヨリ傳来仕候尤父十九歳之節
一 瀧落
右者一月寺御本則小嶋丈助則名残水ヨリ傳来仕候其頃筋違御門外ニ住居仕吹合所差出罷在候
一 穐田菅垣
右者秋田ニ而梅翁子ヨリ傳来仕候
一 転菅垣
右者西向寺音本則野田意悦則名虚道ヨリ傳来仕候
一 九州鈴慕
右者一月寺御本則福田傳次則名義好ヨリ傳来仕候
一 志図曲
一 京鈴慕
一 琴三嘘靈
右三曲者宇治キウコウアン(吸江庵)ニ而龍安ヨリ傳来仕候右琴三嘘靈往古者三味線嘘靈ト号吹来候處勇虎尊師泰嚴尊師御立会ニ而師父琴古江御相談之上右琴三嘘靈ト御改有之候
一 吉野鈴慕
右同人ヨリ傳来仕候
一 夕暮
右者一月御役僧半林子ヨリ傳来仕候
一 堺獅子
右者大森宗郡江残水師父琴古同道ニ而両人共傳来仕候
一 打替虚靈
右者清山寺御本則川原丹蔵ヨリ傳来仕候尤も吹合所ニ而罷在候
一 葦草鈴慕
一 伊豆鈴慕
右二曲勇虎尊師ヨリ傳来仕候
一 鈴慕流
右者一月寺御本則橋本半蔵則名左文ヨリ傳来仕尤其節右左文儀葦草鈴慕懇望ニ付勇虎尊師江右之段御届申上候處向後不及相届候懇望之者江者両曲共傳授可仕旨就被仰渡候葦草鈴慕父琴古ヨリ右左文江傳授仕候
一 ※
鶴巣籠
※「ツル」は、雨冠に鶴
右者宇治キウコウアンニ而龍安ヨリ残水傳来猶叉残水ヨリ祖父琴古傳来仕候
右表十八曲
一 本調子調
一 曙調
一 雲井調
右十八曲名並手続順、右三調子調右者勇虎尊師泰嚴尊師御立会之上御定被仰渡候、右十八曲並前吹三調子調手続順曲名文字向後不相乱サ大切ニ傳可仕旨是又被仰渡候右ニ付是迄急度相守罷在候
裏十七曲
一 曙鈴慕 同虚空 同菅垣 同獅子
一 雲井鈴慕 同虚空 同菅垣 同獅子
右者師父琴古手附仕候
一 同三谷菅垣
右者一計子ヨリ傳来仕候
一 下野虚靈
右者一月寺御門弟秋曲子ヨリ傳来仕候右秋曲子夕暮御懇望ニ付猶叉師父琴古ヨリ傳授仕候
一 目黒獅子
右者西向寺御門弟露秋子ヨリ傳来仕候右露秋子其節京鈴慕御懇望ニ付猶叉師父琴古ヨリ傳授仕候
一 吟龍虚空
右者一月寺御門弟吟龍子ヨリ傳来仕候右吟龍子其節九州鈴慕御懇望ニ付猶叉師父琴古ヨリ傳授仕候
一 佐山菅垣
右者一計子ヨリ傳来仕候尤尺八スガゝキ初ト聞傳候
一 下り葉
右者京都明暗寺御門弟松山子ギヲンサイレイ之節吹被申候右松山子ヨリ傳来仕候
一 波間鈴慕
一 呼返鹿遠音
右者一計子ヨリ両曲傳来仕候
一 鳳将雛
右者師父琴古手付仕候右之曲處勇虎尊師泰嚴尊師江師父琴古ヨリ御届申上置其後明和九壬辰年セキハウ尊師祖関尊師江愈右之曲外々江傳授仕候段御届申上其節ヨリ傳授仕来候
右裏十七曲
都合三十五曲
右十七曲是又處勇虎尊師泰嚴尊師御立会ニ而曲名文字手続御糺之上御定有之候猶叉右三十五曲吹方並尺八調子合吟味仕若調子不合尺八相用江族茂有之候ハゞ□□相糺候上取上ケ御両寺御番所江御届可申上旨被仰渡候決而外々ニ而尺八吹方之儀不相乱候様橋本半蔵別号左門並黒澤幸八別号琴古両人江右之通被仰渡候
右之通御座候以上
月 日 琴古
琴甫
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